Challenge
米菓づくりのこと
岩塚製菓とJAおとふけが育んできた50年のつながり
岩塚製菓の主力商品の一つである「大袖振豆もち」。日本のお米100%でできたサクふわの生地と、北海道音更町で栽培される「音更大袖振大豆」の甘みを思う存分楽しめる商品です。
実は「音更大袖振大豆」は、他の地域ではほとんど栽培されていない希少な品種。味は抜群なのにも関わらず、大量には生産されていません。岩塚製菓株式会社代表取締役社長の槇大介が音更町を訪ね、「音更大袖振大豆」のなりたちや生産量が限られている理由などをJAおとふけ 代表理事組合長の土田 純雄氏にうかがいました。

「音更大袖振大豆」がなければ、作ることのできない商品
槇:「大袖振豆もち」は岩塚製菓の看板商品の一つです。生地は日本のお米を100%使用しふっくら軽い食感に仕上げており、噛むほどに甘い「音更大袖振大豆」が食感と味わいのアクセントになっています。他社にはない、岩塚製菓ならではの商品です。
土田:岩塚製菓さんには、長年にわたり、当農協が生産する音更大袖振大豆をご愛顧いただいています。「音更」という地名が入った農産物を商品に使っていただけることは、生産者にとっても農協にとっても大きな励みです。改めてお礼申し上げます。
槇:岩塚製菓では約50年前に発売した「ふっくら豆餅」の時代から「音更大袖振大豆」を使い続けてきました。「ふっくら豆餅」を開発する際に複数の大豆を試し、音更大袖振大豆が最もこの生地に合うという結論になったのです。その後も多くの試行錯誤を経て、「ふっくら豆餅」は現在の「大袖振豆もち」へと進化していきました。
土田:およそ半世紀も売れ続けているとは、本当に素晴らしいですね。私たちの音更大袖振大豆を使っていただいていることを一層ありがたく思います。
槇:私も伝え聞いた話ではあるのですが、事情があり一度別の大豆へ切り替えた際に、お客様から「以前の豆に戻してほしい」という声を頂戴し、音更大袖振大豆に戻したという経緯があるようです。それほどにまで、豆の味や食感は商品の印象を大きく変えています。「音更大袖振大豆」がなければ「大袖振豆もち」は成り立ちません。
「音更大袖振大豆」は効率的な生産が難しい品種

土田:音更大袖振大豆は、在来品種を音更町で改良して生まれた品種です。1950年ごろ、生産者が従来の大袖振大豆の中から、病気や冷害に強いものを選び、何年もかけて特性を固定していきました。一般的な大豆よりも糖分が多く、甘みを感じやすいことが特長です。炒り豆やきな粉など、素材そのものの味を楽しむ用途に適しています。
加工用としては豆腐に使われることがあります。一般的な豆腐用大豆と比べると、成分の違いから歩留まりがやや低くなることもありますが「音更大袖振大豆で作った豆腐には独特のうまみがある」と評価していただいています。長年使ってくださっている有名豆腐店もありますよ。
槇:「音更大袖振大豆」の歴史はどのように始まったのですか?
土田:全国的に水田の作付け調整が始まった1970年代ごろから、音更町でも水田に代わって、大豆や小麦の作付けが増えていきました。しかし音更大袖振大豆は大豆生産の主流だったわけではありません。音更大袖振大豆は熟す時期がやや遅く、葉や茎の水分が抜けづらいことから機械による収穫が難しかったのです。効率的に農業を行うためには、自然と機械で扱える品種を選ぶことになります。そのため味が良いことがわかっていても「音更大袖振大豆」は音更町の農業の中で大きな割合を占める品種にはならなかったのです。
槇:これほど美味しい大豆でありながら、生産量は限られていたのですね。
土田:そうなのです。しかし「音更大袖振大豆」は音更の生産者が選抜した町の名前を冠した品種です。生産者も農協も、この大豆を大切にしていきたいという想いを持っていました。そのため栽培に携わる生産者も、品種の特性を理解したうえで生産に取り組んでいます。岩塚製菓をはじめ「音更大袖振大豆がよい」と言ってくださるお客様がいることが、生産者にとっては励みになっています。
岩塚製菓は日本のお米を100%使用するなど、素材にこだわっているでしょう。そのようなメーカーに選んでいただいていることが生産者のモチベーションにつながっています。
槇:本当にありがたいことです。先ほども申し上げた通り「大袖振豆もち」は、この豆がなければ成り立ちません。生産者の皆様に作り続けていただけることを、大変心強く感じています。

土田:音更町では、大豆のほかにも小麦やジャガイモ、小豆など、加工を前提とした農産物を数多く生産しています。そのため生産者は自分たちが作った作物の最終的な形状を直接目にしたり、消費者の皆様の感想を直接聞いたりする機会は多くありません。
しかし「大袖振豆もち」は「音更大袖振大豆」がどのような商品になり、どのようにお客様へ届けられているのかが分かる商品です。私たちにとって「大袖振豆もち」は、生産者としての誇りを感じさせてくれる商品です。実際に、JAおとふけでは組合員に「自分たちが生産した大豆は、このような商品に使われています」と「大袖振豆もち」を紹介しています。多くの生産者が農協の施設へ大豆を持ち込む秋には、受け入れ場所でも商品を紹介し、生産した大豆の行き先を知ってもらっています。
岩塚製菓の「技」が「音更大袖振大豆」の良さを生かす

槇:「大袖振豆もち」を作るときには「音更大袖振大豆」を水に浸した後、煎ってから生地に練り込みます。豆の風味を生かしながら、米菓と一緒に食べたときに豆だけが口の中に残らないようにふっくらと仕上げているんです。そのため、餅でできた生地と豆が口の中で一緒にほどけるような食感をお楽しみいただけます。
土田:岩塚製菓さんの加工技術があってこそ、そのような食感を生み出すことができているのでしょう。
槇:その点は、まさに当社独自の技術です。近年は、濃い味付けや目新しい味で商品を手に取っていただく方法も増えています。しかし「大袖振豆もち」は、味付けの強さで選ばれる商品ではありません。お米や豆が持つ風味、甘み、食感といった素材そのもののよさが、長い時間をかけてお客様に伝わってきた商品だと自負しています。
岩塚製菓の「米・技・心」を体現する商品

槇:岩塚製菓には「米・技・心」という言葉があります。創業以来、大切にしてきたものづくりの考え方です。「米」は、お米を中心とした原材料へのこだわりです。「技」は、素材のよさを生かす加工技術を意味します。よい原材料がなければ、よい商品はできません。しかし、加工技術をおろそかにしても、よい商品にはなりません。そして「心」は、作り手の真心です。この三つを合わせたものが、岩塚製菓のものづくりです。「大袖振豆もち」はまさに「米・技・心」を体現している商品の一つ。今後も生産者と加工メーカーが一緒になり、商品の価値をさらに高めていく取り組みを考えていきたいと思います。
土田:今後も、今回のように音更町へ足を運び、生産者や農協の話を聞いていただければ、生産者のモチベーションになります。
槇:2022年以降、「大袖振豆もち」は西日本でも販売が広がっています。ありがたいことに、商品の価値を理解して購入してくださるお客様が増えているのです。原料を供給してくださる生産者の皆様、当社の加工技術、そして販売の取り組みが組み合わさった結果だと思います。
土田:これからもぜひ「音更大袖振大豆」をさまざまな形で全国に紹介していただきたいです。
槇:「大袖振豆もち」は、これから後輩や次の世代へつないでいかなければならない商品です。今回「音更大袖振大豆」の歴史や生産者の皆様の想いを伺えたことをとてもうれしく思っています。
土田:「音更大袖振大豆」は、1950年ごろから続く歴史を持つ品種です。折に触れて歴史を振り返り、その価値を再認識しなければ、JAのなかでも受け継がれてきた話が少しずつ短くなったり、変わったりしてしまうかもしれません。今回のような機会を通じて、岩塚製菓さんとともに歩んできた歴史を確認し、次の世代へ伝えていける機会を持てたことをとてもありがたく思っています。
槇:そのように仰っていただけてよかったです。こちらこそ、本日はありがとうございました。