05日本の文化の根幹にある米

和文化研究家 三浦康子さん インタビュー

米菓を通じて
和の文化を守り伝えることに
貢献しています

米食や稲作は日本の文化や風土の根幹に関わっています。岩塚製菓は製造するすべての米菓に国産米を100%使用。
日本の米食や稲作を支えることで日本の文化を守り伝えることに貢献しています。

生きることは食べること

日本の文化のベースには「生きることは食べること」という考え方があります。その中心にあるのが米です。

古来この考え方は「まつりごと」に反映されてきました。ここでいう「まつりごと」とは、「祭りごと」であり「祀りごと」でもあり、さらに「政」でもあります。
日本のまつりの起源は米を中心とする五穀豊穣を願うことにあります。まつりごとは、春は豊作を祈願して、夏は稲の成長や疫病退散を願って、秋は稔りに感謝をして、冬は一年を無事に過ごせたことを祝いさらに新しい年の幸せを願って執り行われてきました。四季折々の行事は米の収穫を願い、稲作のサイクルに合わせて行われてきたのです。そのためあらゆる日本の行事に米は欠かせません。正月には餅、桃の節句では菱餅やひなあられ、端午の節句では柏餅、十五夜には月見団子といったように、日本の行事にはいつも米由来の食べ物があります。

さらに日本人は健康に生きていくためには歯が大切だと考えました。歯は命を支えるものの象徴です。年齢の「齢」の字には歯という字が入っていますし、赤ちゃんが生まれて100日目に行うお食い初めのなかで、丈夫な歯が生えることを願い歯固めの儀式というものを行います。
米は噛むほどに味わいが増し、歯を丈夫にする食べ物です。昔は正月になると一斉に年をとる数え年でしたが、正月に餅を食べることにも歯固めの意味があります。固くなった餅を食べることで歯を丈夫にし、一年を健康で過ごせるように願ったのです。この餅には新年の魂である年魂(としだま)が宿るとされ、お年玉の起源となりました。日本人は生きるために米を食べ、食べることでさらに健康な身体をつくってきたのです。

稲作によって醸成された「育てる文化」

米は手間暇かけて作られるもので、そこから日本には物事を育てる文化が根付きました。米の稔りを願い、感謝や祈りを捧げてきた日本の行事を毎年繰り返すことによって、日本人は人として大切な物事を学び、成長してきたのです。
稲作を通じて自然に対し畏敬の念を抱くようになった日本人は、季節の移り変わりに敏感になり、そこから風流や風情を大切にするようになりました。また命のつながりを大切に思うことから先祖を大切に思う気持ちも芽生えたのです。自分一人の力では生きていくことができないことを知り「おかげさま」の心も育まれました。
「日本人には信じる宗教がない」とはよく言われる言葉です。それゆえ外国の方々から日本人はどこで道徳心を育んでいるのかと疑問を持たれますが、すでに多くの方がご存知の通り日本には礼儀を重んじる文化があり、多くの人が道徳心やモラルを大切にしています。米が根幹にある日本の文化から、日本には感じる宗教が根付いているのです。

美しい土地と水をつくってきた田んぼ

稲作は日本の風土にも大きく関係しています。
田んぼが広がる田園風景を見てどこか懐かしく、心が和むような経験をした方は少なくないでしょう。田んぼが広がる里山は日本の原風景です。日本人の琴線に触れる景色は郷愁を呼び起こし、深い感動を与えてくれます。

田んぼは土地を守り水を浄化する役割も担っています。
田んぼはフィルターの役割を果たし、浄化したきれいな水を地下に流します。その水は集まって川となり人々の生活を支えてきました。さらに田んぼは地下や河川の水を一定の量に保つダムとしても役立つため、田んぼのまわりでは洪水や土砂崩れが起きにくくなっています。特に棚田はその土地を守る重要な役割を担っているといえるでしょう。
また田んぼでは稲の光合成により酸素が作られ、田んぼに張った水が気化する際に空気が冷えるためフレッシュで気持ちの良い空気が作られます。蒸発した水はやがて雨雲となり大地を潤してくれます。田んぼは米だけでなく、人間が快適に生きるために必要な新鮮な水や空気さえも提供してくれるのです。
田んぼは動物たちにとっても生きやすい環境で、蛍やゲンゴロウ、ザリガニやタニシ、鳥類などにとっても貴重な生息地です。田んぼは人の手によって作られた環境でありながら、多くの生き物にとっても欠かせない場所となっているのです。

三浦康子和文化研究家

三浦康子

古を紐解きながら今の暮らしを楽しむ方法をテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、Web、講演などで提案しており、「行事育」提唱者としても注目されている。連載、レギュラー多数。All About「暮らしの歳時記」、私の根っこプロジェクト「暮らし歳時記」などを立ち上げ、大学で教鞭もとっている。著書『子どもに伝えたい 春夏秋冬 和の行事を楽しむ絵本』(永岡書店)、監修書『おうち歳時記』(朝日新聞出版)ほか多数。